~ 葉菊の響宴(はぎくのうたげ) ~
日時:11月3日(祝・文化の日)16:30開場/17:00開演
演目:《舞のゆうべ》(仮称) 吉村桂充
舞 地唄「善知鳥」(うとう)
唄・三味線:市川佐代子
お話 馬場光子
舞 地唄「ゆき」
唄・三味線: 戸波有香子
胡弓 : 市川佐代子
着付:山口美子
上演時間約1時間、終演後食事会(書院にて)
会費:5,000円 / 8,000円(食事付き)
※予約制となっておりますので、ご希望の方はお早めに法住寺までご連絡ください。
(℡075-561-4137/fax075-541-6787)
※faxの場合、名前、電話番号、人数、会費(食事の有無)をお書きの上、ご送付ください。
※締切日/10月末 定員40名
★演目紹介
~ 地唄 善知鳥 ~
鹿を逐ふ漁師は 山を見ずといふ事あり 身の苦しさも悲しさも 忘れ草の追鳥 高縄をさし引く汐の 末の松山風荒れて 袖に波超す沖の石 または干潟とて 海越しなりし里までも 千賀の塩竈身を焦がす 報ひをも忘れける 事業をなしし悔しさよ そもそもうとう やすかたのとりどりに 品変りたる殺生の なかに無慚やなこの鳥の おろかなるかな筑波嶺の 木々の梢にも羽を敷き 浪の浮巣をも掛けよかし 平沙に子を生みて落雁の はかなや親は隠すとすれど うとうと呼ばれて 子はやすかたと答へけり さてぞ取られやすかた うとう
親は空にて血の涙を 降らせば濡れじと 菅蓑や 笠をかたぶけ ここかしこの 便りを求めて 隠れ笠 隠れ蓑にもあらざれば なほ降りかかる 血の涙に 目も紅に 染めわたるは 紅葉の橋の 鵲か 娑婆にては うとうやすかたと見えしも 冥途にしては化鳥となり 罪人を追つ立て 追つ立て 鉄の嘴を鳴らし 羽をたたき 銅の爪を磨ぎ立てては 眼を掴んで肉を 叫ばんとすれども 猛火のけぶりに むせんで声を上げ得ぬは 鴛鴦を殺しし科やらん 逃げんとすれど 立ち得ぬは 羽抜け鳥の報ひとかや うとうはかへつて鷹となり われは雉とぞなりたりける 遁れ交野の狩場の吹雪に 空も恐ろし 地を走る 犬鷹に責められて あら心うとうやすかた 安き隙なき身の苦しみを 助けて賜べや御僧よ 助けて賜べや御僧と 言ふかと思へば失せにけり
(解説)地唄「善知鳥」は、能の「善知鳥」から取った曲です。
能「善知鳥」・・・陸奥外の浜への途次、立山に立ち寄った僧が、地獄そのままのような恐ろしい光景を見て下山すると、一人の老人が現れる。「外の浜で亡くなった猟師の遺族を訪ねて、自分を供養するよう伝言して欲しい。」と言い、「これを証拠に」と着衣の片袖を引きちぎって渡し姿を消す。僧は外の浜でその妻子を訪ねる。弔いを受けて猟師の亡霊は姿をあらわす。子の鳥を殺した報いで、我が子の髪をなでようとしてもはたせない。親が「うとう」と呼べば子は「やすかた」と答える。子の鳥の習性を利用して猟をしていたこの者は、生前の所業を再現して見せた後、地獄の責め苦として、雉になった自分が、鷹になった善知鳥に追われ逃げ惑う姿を見せて、僧に助けを乞う。
地唄「善知鳥」・・・能「善知鳥」の後半部分の詞章を用いて地唄にした曲。
猟師の亡霊が現れ、生前の所業を語り、今は地獄の責め苦に苦しめられているさまを見せ、僧に助け求めて消えていく。
~ 地唄 ゆき ~
花も雪も はらえば清きたもとかな ほんに昔のむかしのことよ わが待つ人もわれを待ちけん 鴛鴦の雄鳥にもの思い羽の 凍るふすまに鳴く音もさぞな さなきだに心も遠き 夜半の鐘 聞くも淋しき ひとり寝の 枕に響く 霰の音も もしやといっそせきかねて 落つる涙のつららより 辛き命は惜しからねども 恋しき人は罪深く 思わぬことの 悲しさに 捨てた憂き 捨てた浮き世の山かずら
(解説)
作詞 流石庵羽積 作曲 峰崎勾当(みねざきこうとう)
十八世紀後半に大阪で活躍した盲人音楽家、峰崎勾当の作曲です。
地唄「ゆき」は、地唄の中でも唄が重要な「端唄物(はうたもの)」に属します。ソセキという尼になった女性が、若い頃芸妓であった頃の恋を述懐するという内容です。詞も曲も哀調のある美しい曲で、地唄の「端唄物」の最高傑作といえます。舞としても、女心のひだを舞う「艶物(つやもの)」の最高傑作とされています。
曲の途中には、三味線のみで演奏される部分「合の手」があり、夜に響く鐘の音や、音もなく降る雪の静けさをあらわしています。この旋律が大変美しく、日本人の心をつかみ広く愛され、「雪の合の手」(雪の降る情景をあらわす音楽)として、他の曲に取り入れられたり、劇場音楽としても使われています。
(歌詞の内容)
雪は静かに音もなく降りつもります。家々も木々も何もかも、真綿のような雪におおわれ、白一色の世界となり、すべてがはらい清められてゆきます。
そんな雪降る夜の清らかな静寂の中で、実らぬ恋の悲しみ、苦しみから逃れ、心の平安を得るために俗世を捨てて仏門に入った一人の女性が、ふと昔のことを思い出し、涙をこぼします。お寺の鐘を聞いては、独り寝のわびしさに淋しさがこみあげ、去って行った恋しい人のおもかげを追い求め、心が乱れます。
煩悩をたちきるために仏門に入ったはずなのに、ますます燃えあがる恋心。
捨てたはずの俗世の迷いに、思いはいつまでも蔦葛のようにからまりもつれて涙する女心を描きます。
★出演者プロフィール
吉村桂充 (よしむら けいいん)
上方舞(地唄舞)舞踊家 「上方舞友の会」代表
上方舞(地唄舞)を吉村輝章現六世家元、吉村雄輝夫故五世家元に師事。
能楽(能、狂言、能囃子)、邦楽(地唄、義太夫)、剣道(直心影流)、茶道、華道、和歌など、日本の伝統文化を広く学ぶ。
平成十二年より、「日印伝統芸能交流プロジェクト」主催。インドのユネスコ無形文化遺産「クーリヤッタム」、と、日本の無形文化遺産「能」、「上方舞」との交流につとめる。
平成二十三年より、『和のこころ』プロジェクト開始。日本文化を海外に紹介するとともに、世界各国の芸能者との交流、創作を行っている。
宝生流能楽師シテ方人間国宝・故三川泉師の稽古の折の、「芸は無でなければ・・・ 芸は道なんだ。日本の芸はみな道なんだよ。」 という師の言葉を深く胸に刻み、道である舞を追求している。
舞の土台となる「体・心・魂」を磨くための修養につとめ、「丹田呼吸法」「経絡体操法」「瞑想ヨーガ」の指導資格を持つ。
(受賞歴など)
平成三年、四年、五年、六年 「各流派合同新春舞踊大会」にて、大会賞(芸団協奨励賞付き)三回、奨励賞一回受賞 会長賞受賞
平成八、九年 「翔ぶの会」にて奨励賞、優秀賞受賞
平成十四年度文化庁派遣在外研修員(インドにて「クーリヤッタム」「ヨーガ」を学ぶ。)
平成十八年度文化庁芸術祭新人賞受賞
平成二十八年度世界舞踊祭技能賞受賞
馬場光子 (ばばみつこ)
元杉野服飾大学教授
『梁塵秘抄』研究者
日本歌謡学会常任理事
主な著書に、
『今様のこころとことば』(三弥井書店、日本歌謡学会賞受賞)、『走る女』(筑摩書房)、『梁塵秘抄口伝集』(全訳注、講談社学術文庫)